吾輩はネコである

吾輩はネコである
名前は忘れた
と言うかそもそも覚えるつもりなどない
わんこーと違い、名を呼ばれてしっぽを振っておねだりなんぞしない。


春の陽気に昼寝でもしようと天神さまの砂地に来た。
通りに接したところに鳥居が立っていてそのすぐ傍らに狛犬が座している。


ずうっと奥に塗り立てのような鮮やかな朱色の社が見える。
参道に廃ビルのような3階建ての建物があるためか
参拝者が境内まで入って来るのは珍しい。


狛犬のところに吾輩のお気に入り砂地がある。
陽射しで温められた砂地で寝っ転がるのは至福の時間である。
春は朝から眠い。正直 いつも眠い。


今朝もうとうとしながら天神さまにやって来たら
珍しく先客がいた。先客と言っても猫ではない。
狛犬2匹が睨みを利かせているのだから猫なんぞ来るはずがない。
しかも備前焼きで今にも飛びかかりそうな形相なのだから。


先客は月に何度か見かける人間の男である。
男はいつも足早に鳥居をくぐり奥の社まで行って
課金せずに「ぱんぱん」と手を叩き手をあわせる。
それを終えるとそこに坐する狛犬の鼻先に手の平をかざす。
そして何事もなくさっと向き返り足早に鳥居をくぐり出て行く。
独走の参拝、他には無い参拝作法である。


吾輩には害の無い男であるから眠気から覚めはしない。
「にゃーーうん」(ああ 眠いにゃあ)あくびと一緒に声を出してしまった。
男の足音がピタッと止まった。
ぎょっ?(猫だからと言って「魚」ではない)
見開いた吾輩の目と男の目が合った。
「にゃーーおん?」(なんか用か?)
「にゃーーあん みゃーーおん」と男が答えた。
「にゃーーあん」(何言ってるかわかんない」
男は笑みを浮かべて「にゃー」と言って去って行った。


天神さまに静寂な時間が戻ってきた。
「にゃーーうん」(ああ 眠いにゃあ)


吾輩は猫である
にゃーと鳴かれてもにゃ・・にゃんだかわからんにゃ・・むにゃむにゃ。
今年は、天神さまの夏祭りがおこなわれるのかな。