狛犬探偵

俺は探偵だ。と言っても探偵業ではない。
わかりやすく言うと趣味の部類。
コナン君でお馴染みの「少年探偵団」と大して変わらない。


どんなことをしているかと言うと「神さま探し」である。
聞き間違うなよ「かみさん探し」ではないぞ。


年々 神さまの力が弱くなり、一般大衆化・細分化が進んでいる。
昔は国の政や大災害・疫病など多くの命に関わっていたが、
現在は科学的データを用いAI の予測と神をも恐れぬ権力者の欲で
すべてが決められているようだ。


神さまの出番はと言うと
「良い人と出会えますように」(結婚相談所じゃねえ)
「合格できますように」(勉強に集中しろ)
「馬券が当たりますように」{お前が走れ)
・・・まあこんな程度のもの。神さまだって本気出せません。


あしからず そんなわけで「窓際」となって
街のはずれにひっそりと暮らす神さまや
公園の花壇の花に埋もれて暮らす神さま・・などなど。


社に祀られ、万人のあれやこれやを聞く神さまは少数となってしまった。
それは、人々の信仰心が薄れてきている表われでもあろう。


そこで、日本全国に散らばってしまった神さまを探し出し
神さまの組合を作るらしい。
なんとも言えぬ依頼だが、神さまの依頼だし・・・ね。
それはそれは「迷子猫探し」となんら変わらない。(だから俺?)
街中を歩いて歩いて見つけ出すしかない。
神社に寄っては、狛犬に手がかりを訊きだすことが手っ取り早い。


俺には神さまの声が聞こえる。
神さまの言うことにゃ(狛犬なまり)
俺は鬼の血を継いでいるらしい。陰陽師安倍清明(彼も鬼族)に仕えた式神も鬼族。
清明が死す時に式神に命じた。
①人として生きること。
②国が危うい時は鬼の力を蘇らせ式神となれ。
③清明が怨霊となった場合は鬼の力で退治せよ。


時代とともに鬼の血は薄まり、
自分が鬼の血を引いてることも知らない者ばかり、そのひとりが俺だった。
偶然 神社の狛犬に触れた時に狛犬から聞かされた。


この能力が本当のことなのか、俺の妄想なのかはわからない。
神さまの言うことが現実となったら、本当だろうと推測できるが・・・
狛犬が言うことにゃ
俺は神さまの世界では最下級の位置にいるらしい。
そもそも橋の下で暮らす身分で神さまの姿も見れなきゃ声も聞こえない。
狛犬から伝え聞く事だけなのだ。しかも狛犬なまりだし。
必要最低限しか言わんのじゃ。
(勝馬を教えてくれたり、優遇を受けることはない。絶対に。神に誓って)


なにより、神さまの言ったことを狛犬が正確に伝えているか疑わしい。
どうもあの目はどこか泳いでいる気がするのだ。


急に春めいた日
あちらこちらで梅が咲き誇っていた。
桜の木があると自然と枝先を見上げてしまう。
もうすぐだ。もうすぐだ。まだ固い蕾にエールを送ってしまう。


街の中心から少し外れたところに天神山がある。
山と言っても街の開発であろうか苦にならないほどの丘にすぎない。
そこの路地に面したところに朱色の鳥居が立っていた。
覗き込むと奥にも小さな鳥居があり、こじんまりとした社が見えた。
ここの狛犬は備前焼、生きているような躍動感を感じる。
いつものように狛犬の鼻先に手の平を当てた。